の日に瓊葩綉葉《けいはしゅうよう》の間、和気《かき》香風の中《うち》に、臥榻《がとう》を据えてその上に臥《ね》そべり、次第に遠《とおざか》り往く虻《あぶ》の声を聞きながら、眠《ねぶ》るでもなく眠らぬでもなく、唯ウトウトとしているが如く、何ともかとも言様なく愉快《こころよか》ッたが、虫|奴《め》は何時の間にか太く逞《たくま》しく成ッて、「何したのじゃアないか」ト疑ッた頃には、既に「添《そい》たいの蛇《じゃ》」という蛇《へび》に成ッて這廻《はいまわ》ッていた……寧《むし》ろ難面《つれな》くされたならば、食すべき「たのみ」の餌《えさ》がないから、蛇奴も餓死《うえじに》に死んでしまいもしようが、憖《なまじい》に卯《う》の花くだし五月雨《さみだれ》のふるでもなくふらぬでもなく、生殺《なまごろ》しにされるだけに蛇奴も苦しさに堪え難《か》ねてか、のたうち廻ッて腸《はらわた》を噛断《かみちぎ》る……初の快さに引替えて、文三も今は苦しくなッて来たから、窃《ひそ》かに叔母の顔色《がんしょく》を伺ッて見れば、気の所為《せい》か粋《すい》を通して見て見ぬ風をしているらしい。「若《も》しそうなればもう叔母の許《
前へ
次へ
全294ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング