る※[#白ゴマ点、214−10]ふと気が渝《かわ》って、今こう零落していながら、この様な薬袋《やくたい》も無い事に拘《かかずら》ッて徒《いたずら》に日を送るを極《きわめ》て愚《ぐ》のように思われ、もうお勢の事は思うまいと、少時《しばらく》思の道を絶ッてまじまじとしていてみるが、それではどうも大切な用事を仕懸けて罷《や》めたようで心が落居《おちい》ず、狼狽《うろたえ》てまたお勢の事に立戻って悶え苦しむ。
人の心というものは同一の事を間断なく思ッていると、遂に考え草臥《くたびれ》て思弁力の弱るもので。文三もその通り、始終お勢の事を心配しているうちに、何時からともなく注意が散って一事《ひとこと》には集らぬようになり、おりおり互に何の関係をも持たぬ零々砕々《ちぎれちぎれ》の事を取締《とりしめ》もなく思う事も有った。曾《か》つて両手を頭《かしら》に敷き、仰向けに臥《ふ》しながら天井を凝視《みつ》めて初は例の如くお勢の事をかれこれと思っていたが、その中《うち》にふと天井の木目《もくめ》が眼に入って突然妙な事を思った※[#白ゴマ点、215−2]「こう見たところは水の流れた痕《あと》のようだな」、こ
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