う思うと同時にお勢の事は全く忘れてしまった、そして尚お熟々《つくづく》とその木目に視入って、「心の取り方に依っては高低《たかびく》が有るようにも見えるな。ふふん、『おぷちかる、いるりゅうじょん』か」。ふと文三等に物理を教えた外国教師の立派な髯《ひげ》の生えた顔を憶い出すと、それと同時にまた木目の事は忘れてしまった。続いて眼前《めさき》に七八人の学生が現われて来たと視れば、皆同学の生徒等で、或は鉛筆を耳に挿《はさ》んでいる者も有れば、或は書物を抱えている者も有り又は開いて視ている者も有る。能く視れば、どうか文三もその中《うち》に雑《まじ》っているように思われる。今|越歴《エレキ》の講義が終ッて試験に掛る所で、皆「えれくとりある、ましん」の周囲《まわり》に集って、何事とも解らんが、何か頻《しき》りに云い争いながら騒いでいるかと思うと、忽《たちま》ちその「ましん」も生徒も烟《けぶり》の如く痕迹《あとかた》もなく消え失《う》せて、ふとまた木目が眼に入った。「ふん、『おぷちかる、いるりゅうじょん』か」と云って、何故《なにゆえ》ともなく莞爾《にっこり》した。「『いるりゅうじょん』と云えば、今まで読
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