に掻口説《かきくど》く外、他に仕方もないが、しかし、今の如くに、こう齟齬《くいちが》ッていては言ったとて聴きもすまいし、また毛を吹いて疵《きず》を求めるようではと思えば、こうと思い定めぬうちに、まず気が畏縮《いじ》けて、どうもその気にもなれん。から、また思い詰めた心を解《ほご》して、更に他にさまざまの手段を思い浮べ、いろいろに考え散してみるが、一つとして行われそうなのも見当らず、回《めぐ》り回ッてまた旧《もと》の思案に戻って苦しみ悶《もだ》えるうちに、ふと又例の妄想《もうそう》が働きだして無益な事を思わせられる。時としては妙な気になッて、総てこの頃の事は皆一|時《じ》の戯《たわぶれ》で、お勢は心から文三に背《そむ》いたのでは無くて、只背いた風《ふり》をして文三を試ているので、その証拠には今にお勢が上って来て、例の華かな高笑で今までの葛藤《もだくだ》を笑い消してしまおうと思われる事が有る※[#白ゴマ点、214−8]が、固より永くは続かん※[#白ゴマ点、214−8]無慈悲な記憶が働きだしてこの頃あくたれた時のお勢の顔を憶い出させ、瞬息の間《ま》にその快い夢を破ってしまう。またこういう事も有
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