られて、何心なく物を言っては高笑《たかわらい》をする、その様子を見ると、手を束《つか》ねて安座していられなくなる。
 お勢は今|甚《はなは》だしく迷っている、豕《いのこ》を抱《いだ》いて臭きを知らずとかで、境界《きょうがい》の臭みに居ても、おそらくは、その臭味がわかるまい。今の心の状《さま》を察するに、譬《たと》えば酒に酔ッた如くで、気は暴《あれ》ていても、心は妙に昧《くら》んでいるゆえ、見る程の物聞く程の事が眼や耳やへ入ッても底の認識までは届かず、皆中途で立消をしてしまうであろう※[#白ゴマ点、211−5]また徒《た》だ外界と縁遠くなったのみならず、我内界とも疎《うと》くなったようで、我心ながら我心の心地はせず、始終何か本体の得知れぬ、一種不思議な力に誘《いざな》われて言動|作息《さそく》するから、我《われ》にも我が判然とは分るまい、今のお勢の眼には宇宙は鮮《あざや》いで見え、万物は美しく見え、人は皆|我一人《われいちにん》を愛して我一人のために働いているように見えよう※[#白ゴマ点、211−9]|若《も》し顔を皺《しか》めて溜息《ためいき》を吐《つ》く者が有れば、この世はこれほど住
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