濶《うかつ》に手は出さんが、罠《わな》のと知りつつ、油鼠《あぶらねずみ》の側《そば》を去られん老狐《ふるぎつね》の如くに、遅疑しながらも、尚おお勢の身辺を廻って、横眼で睨《にら》んでは舌舐《したねぶ》りをする(文三は何故か昇の妻となる者は必ず愚《おろか》で醜い代り、権貴な人を親に持った、身柄《みがら》の善い婦人とのみ思いこんでいる)。お政は昇の意《こころ》を見抜いてい、昇もまたお政の意を見抜いている※[#白ゴマ点、210−12]しかも互に見抜れていると略《ほ》ぼ心附いている。それゆえに、故《ことさ》らに無心な顔を作り、思慮の無い言《こと》を云い、互に瞞着《まんちゃく》しようと力《つと》めあうものの、しかし、双方共力は牛角《ごかく》のしたたかものゆえ、優《まさり》もせず、劣《おとり》もせず、挑《いど》み疲れて今はすこし睨合《にらみあい》の姿となった。総てこれ等の動静《ようす》は文三も略《ほ》ぼ察している。それを察しているから、お勢がこのような危い境に身を処《お》きながら、それには少しも心附かず、私欲と淫欲とが爍《れき》して出来《でか》した、軽く、浮いた、汚《けがら》わしい家内の調子に乗せ
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