賑《にぎや》かで、心配もなく、気あつかいも無く、浮々《うかうか》として面白そうに見えるものの、熟々《つらつら》視れば、それは皆|衣物《きもの》で、※[#「身+果」、第4水準2−89−55]体《はだかみ》にすれば、見るも汚《けがら》わしい私欲、貪婪《どんらん》、淫褻《いんせつ》、不義、無情の塊《かたまり》で有る。以前人々の心を一致さした同情も無ければ、私心の垢《あか》を洗った愛念もなく、人々|己《おのれ》一個の私《わたくし》をのみ思ッて、己《おの》が自恣《じし》に物を言い、己が自恣に挙動《たちふるま》う※[#白ゴマ点、210−4]|欺《あざむ》いたり、欺かれたり、戯言《ぎげん》に託して人の意《こころ》を測ッてみたり、二つ意味の有る言《こと》を云ってみたり、疑ッてみたり、信じてみたり、――いろいろさまざまに不徳を尽す。
 お政は、いうまでもなく、死灰《しかい》の再び燃えぬうちに、早く娘を昇に合せて多年の胸の塊を一時におろしてしまいたいが、娘が、思うように、如才なくたちまわらんので、それで歯癢《はがゆ》がって気を揉《も》み散らす。昇はそれを承知しているゆえ、後《のち》の面倒を慮《おも》って迂
前へ 次へ
全294ページ中278ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング