か紅《べに》を潮《さ》す。閉じた胸の一時に開けた為め、天成の美も一段の光を添えて、艶《えん》なうちにも、何処か豁然《からり》と晴やかに快さそうな所も有りて、宛然《さながら》蓮《はす》の花の開くを観るように、見る眼も覚めるばかりで有ッた。突然お勢は跳ね起きて、嬉しさがこみあげて、徒《ただ》は坐ッていられぬように、そして柱に懸けた薄暗い姿見に対《むか》い、糢糊《ぼんやり》写る己《おの》が笑顔を覗《のぞ》き込んで、あやすような真似をして、片足浮かせて床の上でぐるりと回り、舞踏でもするような運歩《あしどり》で部屋の中《うち》を跳ね廻ッて、また床の上へ来るとそのまま、其処《そこ》へ臥倒《ねたお》れる拍子に手ばしこく、枕《まくら》を取ッて頭《かしら》に宛《あて》がい、渾身《みうち》を揺りながら、締殺ろしたような声を漏らして笑い出して。
この狂気《きちがい》じみた事の有ッた当坐は、昇が来ると、お勢は臆《おく》するでもなく耻《はじ》らうでもなく只何となく落着が悪いようで有ッた。何か心に持ッているそれを悟られまいため、やはり今までどおり、おさなく、愛度気《あどけ》なく待遇《あしらお》うと、影では思うが
前へ
次へ
全294ページ中270ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング