も、お嫁に行くのは厭かえ?」という。「厭なこった」、と云ッて、お勢は今まで顔へ出していた思慮を尽《ことごと》く内へ引込ましてしまう。「おや、何故だろう。本田さんなら、いいじゃないか、ちょいと気が利《き》いていて、小金も少《ちっ》とは持ッていなさりそうだし、それに第一男が好くッて」「厭なこッた」「でも、若し本田さんがくれろと云ッたら、何と云おう?」、と云われて、お勢は少し躊躇《たゆた》ッたが、狼狽《うろた》えて、「い……いやなこッた」。お政はじろりとその様子をみて、何を思ッてか、高く笑ッたばかりで、再び娘を詰《なじ》らなかッた。その後《のち》はお勢は故《ことさ》らに何喰わぬ顔を作ッてみても、どうも旨《うま》くいかぬようすで、動《やや》もすれば沈んで、眼を細くして何処か遠方を凝視《みつ》め、恍惚《うっとり》として、夢現《ゆめうつつ》の境に迷うように見えたことも有ッた。「十一時になるよ」と母親に気を附けられたときは、夢の覚めたような顔をして溜息《ためいき》さえ吐《つ》いた。
部屋へ戻ッても、尚お気が確かにならず、何心なく寐衣《ねまき》に着代えて、力無さそうにベッたり、床の上へ坐ッたまま、身
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