も、睚眥《がいさい》の怨《えん》は必ず報ずるという蚰蜒魂《げじげじだましい》で、気に入らぬ者と見れば何かにつけて真綿に針のチクチク責をするが性分。親の前でこそ蛤貝《はまぐりがい》と反身《そっくりかえ》れ、他人の前では蜆貝《しじみがい》と縮まるお勢の事ゆえ、責《さいな》まれるのが辛らさにこの女丈夫に取入ッて卑屈を働らく。固より根がお茶ッぴいゆえ、その風には染り易いか、忽《たちまち》の中に見違えるほど容子《ようす》が変り、何時しか隣家の娘とは疎々《うとうと》しくなッた。その後英学を初めてからは、悪足掻《わるあがき》もまた一段で、襦袢《じゅばん》がシャツになれば唐人髷《とうじんわげ》も束髪に化け、ハンケチで咽喉《のど》を緊《し》め、鬱陶《うっとう》しいを耐《こら》えて眼鏡を掛け、独《ひとり》よがりの人笑わせ、天晴《あっぱれ》一個のキャッキャとなり済ました。然るに去年の暮、例の女丈夫は教師に雇われたとかで退塾してしまい、その手に属したお茶ッぴい連も一人去り二人|去《さり》して残少《のこりずく》なになるにつけ、お勢も何となく我宿恋しく成ッたなれど、まさかそうとも言い難《か》ねたか、漢学は荒方《あ
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