唐机《とうづくえ》の上に孔雀《くじゃく》の羽を押立る。お政は学問などという正坐《かしこま》ッた事は虫が好かぬが、愛《いと》し娘の為《し》たいと思ッて為《す》る事と、そのままに打棄てて置く内、お勢が小学校を卒業した頃、隣家の娘は芝辺のさる私塾へ入塾することに成ッた。サアそう成るとお勢は矢も楯《たて》も堪《たま》らず、急に入塾が仕たくなる。何でもかでもと親を責《せ》がむ、寝言にまで言ッて責がむ。トいってまだ年端《としは》も往かぬに、殊《こと》にはなまよみの甲斐なき婦人《おんな》の身でいながら、入塾などとは以《もって》の外、トサ一旦《いったん》は親の威光で叱り付けては見たが、例の絶食に腹を空《すか》せ、「入塾が出来ない位なら生ている甲斐がない」ト溜息《ためいき》噛雑《かみま》ぜの愁訴、萎《しお》れ返ッて見せるに両親も我を折り、それ程までに思うならばと、万事を隣家の娘に托《たく》して、覚束《おぼつか》なくも入塾させたは今より二年|前《ぜん》の事で。
お勢の入塾した塾の塾頭をしている婦人は、新聞の受売からグット思い上りをした女丈夫《じょじょうぶ》、しかも気を使ッて一飯の恩は酬《むく》いぬがちで
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