もなくば、借家人が更らに家賃《たなちん》を納《い》れぬ苦情――皆つまらぬ事ばかり。一つとしてお勢の耳には面白くも聞こえないが、それでいて、両人《ふたり》の話している所を聞けば、何か、談話《はなし》の筋の外に、男女交際、婦人|矯風《きょうふう》の議論よりは、遥《はるか》に優《まさ》りて面白い所が有ッて、それを眼顔《めかお》で話合ッて娯《たの》しんでいるらしいが、お勢にはさっぱり解らん。が、余程面白いと見えて、その様な談話《はなし》が始まると、お政は勿論、昇までが平生の愛嬌《あいきょう》は何処へやら遣《や》ッて、お勢の方は見向もせず、一心になッて、或《あるい》は公債を書替える極《ごく》簡略な法、或は誰も知ッている銀行の内幕、またはお得意《はこ》の課長の生計の大した事を喋々《ちょうちょう》と話す。お勢は退屈で退屈で、欠《あく》びばかり出る。起上《たちあが》ッて部屋へ帰ろうとは思いながら、つい起《たち》そそくれて潮合《しおあい》を失い、まじりまじり思慮の無い顔をして面白《おもしろく》もない談話《はなし》を聞いているうちに、いつしか眼が曇り両人《ふたり》の顔がかすんで話声もやや遠く籠《こも》ッて
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