で》に戻る。両人とも顔を合わせれば、只《ただ》戯《たわ》ぶれるばかり、落着いて談話《はなし》などした事更に無し。それも、お勢に云わせれば、昇が宜しく無いので、此方《こちら》で真面目《まじめ》にしているものを、とぼけた顔をし、剽軽《ひょうきん》な事を云い、軽く、気無しに、調子を浮かせてあやなしかける。それ故《ゆえ》、念に掛けて笑うまいとはしながら、おかしくて、おかしくて、どうも堪《たま》らず、唇を噛締《かみし》め、眉《まゆ》を釣上《つりあ》げ、真赤になッても耐《こら》え切れず、つい吹出して大事の大事の品格を落してしまう。果は、何を云われんでも、顔さえ見れば、可笑《おか》しくなる。「本当に本田さんはいけないよ、人を笑わしてばかりいて」。お勢は絶えず昇を憎がッた。
こうお勢に対《むか》うと、昇は戯《たわぶ》れ散らすが、お政には無遠慮といううちにも、何処《どこ》かしっとりした所が有ッて、戯言《たわごと》を云わせれば、云いもするが、また落着く時には落着いて、随分真面目な談話《はなし》もする。勿論《もちろん》、真面目な談話と云ッたところで、金利公債の話、家屋敷の売買《うりかい》の噂《うわさ》、さ
前へ
次へ
全294ページ中259ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング