いうまでも無い。が、過《あや》まッた文三は、――実に今まではお勢を見謬《みあや》まッていた。今となッて考えてみれば、お勢はさほど高潔でも無《ない》。移気、開豁《はで》、軽躁《かるはずみ》、それを高潔と取違えて、意味も無い外部の美、それを内部のと混同して、愧《はず》かしいかな、文三はお勢に心を奪われていた。
我に心を動かしていると思ッたがあれが抑《そもそ》も誤まりの緒《いとぐち》。苟《かりそ》めにも人を愛するというからには、必ず先《ま》ず互いに天性気質を知りあわねばならぬ。けれども、お勢は初《はじめ》より文三の人と為《な》りを知ッていねば、よし多少文三に心を動かした如き形迹《けいせき》が有《あれ》ばとて、それは真に心を動かしていたではなく、只ほんの一時|感染《かぶ》れていたので有ッたろう。
感受の力の勝つ者は誰しも同じ事ながら、お勢は眼前に移り行く事や物やのうち少しでも新奇な物が有れば、眼早くそれを視て取ッて、直ちに心に思い染《し》める。けれども、惜しいかな、殆《ほとん》ど見たままで、別に烹煉《ほうれん》を加うるということをせずに、無造作にその物その事の見解を作ッてしまうから、自《お
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