れては、さすがのお政ももう噛付《かみつ》きようが無いと見えて、無言で少選《しばらく》文三を睨《ね》めるように視ていたが、やがて、
「ああ厭だ厭だ」と顔を皺《しか》めて、「こんな厭な思いをするも皆《みんな》彼奴《あいつ》のお蔭《かげ》だ。どれ」と起ち上ッて、「往ッて土性骨《どしょうぼね》を打挫《ぶっくじ》いてやりましょう」
お政は坐舗を出てしまッた。
お政が坐舗を出るや否《いな》や、文三は今までの溜涙《ためなみだ》を一時にはらはらと落した。ただそのまま、さしうつむいたままで、良《やや》久《しば》らくの間、起ちも上がらず、身動きもせず、黙念として坐ッていた。が、そのうちにお鍋が帰ッて来たので、文三も、余義なく、うつむいたままで、力無さそうに起ち上り、悄々《すごすご》我部屋へ戻ろうとして梯子段《はしごだん》の下まで来ると、お勢の部屋で、さも意地張ッた声で、
「私ゃアもう家《うち》に居るのは厭だ厭だ」
第十六回
あれほどまでにお勢|母子《おやこ》の者に辱《はずかし》められても、文三はまだ園田の家を去る気になれない。但《た》だ、そのかわり、火の消えたように、鎮《しず》まッてし
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