向いて、可畏《こわ》らしい眼付をして文三を睨《ね》め出した。その容子《ようす》が常で無いから、お鍋はふと笑い罷《や》んでもッけな顔をする。文三は色を失ッた……
「どうせ私は意久地が有りませんのさ」とお勢はじぶくりだした、誰に向ッて云うともなく。
「笑いたきゃア沢山《たんと》お笑いなさい……失敬な。人の叱られるのが何処《どこ》が可笑《おか》しいンだろう? げたげたげたげた」
「何だよ、やかましい! 言艸《いいぐさ》云わずと、早々《さっさ》と拭いておしまい」
 と母親は火鉢の布巾《ふきん》を放《な》げ出す。けれども、お勢は手にだも触れず、
「意久地がなくッたッて、まだ自分が云ッたことを忘れるほど盲録《もうろく》はしません。余計なお世話だ。人の事よりか自分の事を考えてみるがいい。男の口からもう口も開《き》かないなンぞッて云ッて置きながら……」
「お勢!」
 と一句に力を籠《こ》めて制する母親、その声ももウこう成ッては耳には入らない。文三を尻眼《しりめ》に懸けながらお勢は切歯《はぎし》りをして、
「まだ三日も経《た》たないうちに、人の部屋へ……」
「これ、どうしたもンだ」
「だッて私ア腹が立つ
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