へ懸けて、胸と共に障子を躍らしながら開けてみれば、お勢は机の前に端坐《かしこま》ッて、一心に壁と睨《にら》め競《くら》。
「お勢さん」
と瀬蹈《せぶみ》をしてみれば、愛度気《あどけ》なく返答をしない。危きに慣れて縮めた胆《きも》を少し太くして、また、
「お勢さん」
また返答をしない。
この分なら、と文三は取越して安心をして、莞爾々々《にこにこ》しながら部屋へ入り、好き程の所に坐を占めて、
「少しお噺《はなし》が……」
この時になッてお勢は初めて、首の筋でも蹙《つま》ッたように、徐々《そろそろ》顔を此方《こちら》へ向け、可愛《かわい》らしい眼に角を立てて、文三の様子を見ながら、何か云いたそうな口付をした。
今打とうと振上げた拳《こぶし》の下に立ッたように、文三はひやりとして、思わず一生懸命にお勢の顔を凝視《みつ》めた。けれども、お勢は何とも云わず、また向うを向いてしまッたので、やや顔を霽《は》らして、極《きま》りわるそうに莞爾々々《にこにこ》しながら、
「この間は誠にどう……」
もと云い切らぬうち、つと起き上ッたお勢の体が……不意を打たれて、ぎょッとする、女帯が、友禅《ゆうぜ
前へ
次へ
全294ページ中236ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング