なし。昼飯《ひるはん》の時、顔を合わしたが、お勢は成りたけ文三の顔を見ぬようにしている。偶々《たまたま》眼を視合わせれば、すぐ首を据《す》えて可笑《おか》しく澄ます。それが睨付《にらみつけ》られるより文三には辛《つら》い。雨は歇《や》まず、お勢は済まぬ顔、家内も湿り切ッて誰とて口を聞く者も無し。文三果は泣出したくなッた。
 心苦しいその日も暮れてやや雨はあがる。昇が遊びに来たか、門口で華やかな声。お鍋のけたたましく笑う声が聞える。お勢はその時奥坐舗に居たが、それを聞くと、狼狽《うろた》えて起上ろうとしたが間に合わず、――気軽《きがろ》に入ッて来る昇に視られて、さも余義なさそうに又坐ッた。
 何も知らぬから、昇、例の如く、好もしそうな眼付をしてお勢の顔を視て、挨拶《あいさつ》よりまず戯言《ざれごと》をいう、お勢は莞爾《にっこり》ともせず、真面目な挨拶をする、――かれこれ齟齬《くいちが》う。から、昇も怪訝《けげん》な顔色《かおつき》をして何か云おうとしたが、突然お政が、三日も物を云わずにいたように、たてつけて饒舌《しゃべ》り懸けたので、つい紛《はぐ》らされてその方を向く。その間《ま》にお勢
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