はこッそり起上ッて坐舗を滑り出ようとして……見附けられた。
「何処《どこ》へ、勢ちゃん?」
 けれども、聞えませんから返答を致しませんと云わぬばかりで、お勢は坐舗を出てしまッた。
 部屋は真の闇《やみ》。手探りで摺附木《マッチ》だけは探り当てたが、洋燈《ランプ》が見附らない。大方お鍋が忘れてまだ持ッて来ないので有ろう。「鍋や」と呼んで少し待ッてみて又「鍋や……」、返答をしない。「鍋、鍋、鍋」たてつけて呼んでも返答をしない。焦燥《じれ》きッていると、気の抜けたころに、間の抜けた声で、
「お呼びなさいましたか?」
「知らないよ……そんな……呼んでも呼んでも、返答もしないンだものを」
「だッてお奥で御用をしていたンですものを」
「用をしていると返答は出来なくッて?」
「御免遊ばせ……何か御用?」
「用が無くッて呼びはしないよ……そンな……人を……くらみ(暗黒)でるのがわかッ(分ら)なッかえッ?」
 二三度聞直して漸く分ッて洋燈《ランプ》は持ッて来たが、心無し奴《め》が跡をも閉めずして出て往ッた。
「ばか」
 顔に似合わぬ悪体を吐《つ》きながら、起上《たちあが》ッて邪慳《じゃけん》に障子を〆《
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