く顔が視たい。
三十分たち、一時間たつ。今に起きて来るか、と思えば、肉癢《こそば》ゆい。髪の寐乱れた、顔の蒼《あお》ざめた、腫瞼《はれまぶち》の美人が始終|眼前《めさき》にちらつく。
「昨日《きのう》下宿しようと騒いだは誰で有ッたろう」と云ッたような顔色《かおつき》……
朝飯《あさはん》がすむ。文三は奥坐舗を出ようとする、お勢はその頃になッて漸々《ようよう》起きて来て、入ろうとする、――縁側でぴッたり出会ッた……はッと狼狽《うろた》えた文三は、予《かね》て期《ご》した事ながら、それに引替えて、お勢の澄ましようは、じろりと文三を尻眼《しりめ》に懸けたまま、奥坐舗へツイとも云わず入ッてしまッた。只それだけの事で有ッた。
が、それだけで十分。そのじろりと視た眼付が眼の底に染付《しみつ》いて忘れようとしても忘れられない。胸は痞《つか》えた。気は結ぼれる。搗《か》てて加えて、朝の薄曇りが昼少し下《さが》る頃より雨となッて、びしょびしょと降り出したので、気も消えるばかり。
お勢は気分の悪いを口実《いいだて》にして英語の稽古《けいこ》にも往かず、只一間に籠《こも》ッたぎり、音沙汰《おとさた》
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