免職と聞くより早くガラリ気が渝《かわ》ッて、俄《にわか》に配合《めあわ》せるのが厭に成ッて、急拵《きゅうごしらえ》の愛想尽《あいそづ》かしを陳立《ならべた》てて、故意に文三に立腹さしてそして娘と手を切らせようとした……どうも可笑しい。
 こうした疑念が起ッたので、文三がまた叔母の言草、悔しそうな言様、ジレッタそうな顔色を一々漏らさず憶起《おもいおこ》して、さらに出直おして思惟《しゆい》して見て、文三は遂《つい》に昨日《きのう》の非を覚《さと》ッた。
 叔母の心事を察するに、叔母はお勢の身の固まるのを楽みにしていたに相違ない。来年の春を心待に待ていたに相違ない。アノ帯をアアしてコノ衣服をこうしてと私《ひそか》に胸算用をしていたに相違ない。それが文三が免職に成ッたばかりでガラリト宛《あて》が外れたので、それで失望したに相違ない。凡《およ》そ失望は落胆を生み落胆は愚痴を生む。「叔母の言艸《いいぐさ》を愛想尽《あいそづ》かしと聞取ッたのは全く此方《こちら》の僻耳《ひがみみ》で、或は愚痴で有ッたかも知れん」ト云う所に文三気が附いた。
 こう気が附《つい》て見ると文三は幾分か恨《うらみ》が晴れた。
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