概略《あらまし》はまず箇様《こう》で。
 先頃免職が種で油を取られた時は、文三は一途《いちず》に叔母を薄情な婦人と思詰めて恨みもし立腹もした事では有るが、その後|沈着《おちつ》いて考えて見るとどうやら叔母の心意気が飲込めなくなり出した。
 成程叔母は賢婦でも無い、烈女でもない、文三の感情、思想を忖度《そんたく》し得ないのも勿論の事では有るが、シカシ菽麦《しゅくばく》を弁ぜぬ程の痴女子《ちじょし》でもなければ自家独得の識見をも保着《ほうちゃく》している、論事矩《ロジック》をも保着している、処世の法をも保着している。それでいて何故アア何の道理も無く何の理由もなく、唯文三が免職に成ッたと云うばかりで、自身も恐らくは無理と知り宛《つつ》無理を陳《なら》べて一人で立腹して、また一人で立腹したとてまた一人で立腹して、罪も咎《とが》も無い文三に手を杖《つ》かして謝罪《わび》さしたので有ろう。お勢を嫁《か》するのが厭《いや》になってと或時《あのとき》は思いはしたようなものの、考えて見ればそれも可笑《おか》しい。二三|分時《ぷんじ》前までは文三は我女《わがむすめ》の夫、我女は文三の妻と思詰めていた者が、
前へ 次へ
全294ページ中201ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング