した趣きで、立止ッて暫らく文三を疾視付《にらみつ》けていたが、やがてニヤリと冷笑《あざわら》ッて、
「フフン、前後忘却の体《てい》か」
ト云いながら二階を降りてしまッた。お勢も続いて起上ッて、不思議そうに文三の容子《ようす》を振反ッて観ながら、これも二階を降りてしまッた。
跡で文三は悔しそうに歯を喰切《くいしば》ッて、拳《こぶし》を振揚げて机を撃ッて、
「畜生ッ」
梯子段《はしごだん》の下あたりで昇とお勢のドッと笑う声が聞えた。
第十一回 取付く島
翌朝朝飯の時、家内の者が顔を合わせた。お政は始終顔を皺《しか》めていて口も碌々《ろくろく》聞かず、文三もその通り。独りお勢|而已《のみ》はソワソワしていて更らに沈着《おちつ》かず、端手《はした》なく囀《さえず》ッて他愛《たわい》もなく笑う。かと思うとフト口を鉗《つぐ》んで真面目《まじめ》に成ッて、憶出《おもいだ》したように額越《ひたえご》しに文三の顔を眺《なが》めて、笑うでも無く笑わぬでもなく、不思議そうな剣呑《けんのん》そうな奇々妙々な顔色《がんしょく》をする。
食事が済む。お勢がまず起上《たちあが》ッて坐舗《ざし
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