ャクシャと腹が立つ。風が宜ければさほどにも思うまいが、風が悪いので尚お一層腹が立つ。油汗を鼻頭《はなさき》ににじませて、下唇《したくちびる》を喰締めながら、暫らくの間|口惜《くちお》しそうに昇の馬鹿笑いをする顔を疾視《にら》んで黙然としていた。
お勢が溢《こぼ》れるばかりに水を盛ッた「コップ」を盆に載せて持ッて参ッた。
「ハイ本田さん」
「これはお待遠うさま」
「何ですと」
「エ」
「アノとぼけた顔」
「アハハハハ、シカシ余り遅かッたじゃないか」
「だッて用が有ッたんですもの」
「浮気でもしていやアしなかッたか」
「貴君《あなた》じゃ有るまいシ」
「我輩がそんなに浮気に見えるかネ……ドッコイ『課長さんの令妹』と云いたそうな口付をする。云えば此方《こっち》にも『文さん』ト云う武器が有るから直ぐ返討だ」
「厭な人だネー、人が何にも言わないのに邪推を廻わして」
「邪推を廻わしてと云えば」
ト文三の方を向いて、
「どうだ隊長、まだ胸に落んか」
「君の云う事は皆|遁辞《とんじ》だ」
「何故」
「そりゃ説明するに及ばん、Self《セルフ》−evident《エヴィデント》 truth《ツルース》
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