内へ進入《すすみい》ッて、左手の方の杪枯《うらが》れた桜の樹の植込みの間へ這入ッて、両手を背後に合わせながら、顔を皺《しか》めて其処此処《そこここ》と徘徊《うろつ》き出した。蓋《けだ》し、尋ねようと云う石田の宿所は後門《うらもん》を抜ければツイ其処では有るが、何分にも胸に燃す修羅苦羅《しゅらくら》の火の手が盛《さかん》なので、暫らく散歩して余熱《ほとぼり》を冷ます積りで。
「シカシ考えて見ればお勢も恨みだ」
 ト文三が徘徊《うろつ》きながら愚痴を溢《こぼ》し出した。
「現在自分の……我《おれ》が、本田のような畜生に辱められるのを傍観していながら、悔しそうな顔もしなかッた……平気で人の顔を視ていた……」
「しかも立際に一所に成ッて高笑いをした」ト無慈悲な記臆が用捨なく言足《いいたし》をした。
「そうだ高笑いをした……シテ見れば弥々《いよいよ》心変りがしているかしらん……」
 ト思いながら文三が力無さそうに、とある桜の樹の下《もと》に据え付けてあッたペンキ塗りの腰掛へ腰を掛ける、と云うよりは寧《むし》ろ尻餅《しりもち》を搗《つ》いた。暫らくの間は腕を拱《く》んで、顋《あご》を襟《えり》に埋
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