をさえ甞《な》めかねぬ廉耻《れんち》知らず、昇如き者の為めに文三が嘲笑されたり玩弄されたり侮辱されたりしても手出をもせず阿容々々《おめおめ》として退《しりぞ》いたのを視て、或《あるい》は不甲斐《ふがい》ない意久地が無いと思いはしなかッたか……仮令《よし》お勢は何とも思わぬにしろ、文三はお勢の手前面目ない、耻《はず》かしい……
「ト云うも昇、貴様から起ッた事だぞ、ウヌどうするか見やがれ」
ト憤然《やっき》として文三が拳を握ッて歯を喰切《くいしば》ッて、ハッタとばかりに疾視付《にらみつ》けた。疾視付けられた者は通りすがりの巡査で、巡査は立止ッて不思議そうに文三の背長《せたけ》を眼分量に見積ッていたが、それでも何とも言わずにまた彼方《あちら》の方へと巡行して往ッた。
愕然《がくぜん》として文三が、夢の覚めたような面相《かおつき》をしてキョロキョロと四辺《あたり》を環視《みま》わして見れば、何時《いつ》の間にか靖国《やすくに》神社の華表際《とりいぎわ》に鵠立《たたずん》でいる。考えて見ると、成程|俎橋《まないたばし》を渡ッて九段坂を上ッた覚えが微《かすか》に残ッている。
乃《すなわ》ち社
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