かも廉潔《れんけつ》な心から文三が手を下げて頼まぬと云えば、嫉《ねた》み妬《そね》みから負惜しみをすると臆測《おくそく》を逞《たくましゅ》うして、人も有ろうにお勢の前で、
「痩我慢なら大抵にしろ」
口惜しい、腹が立つ。余《よ》の事はともかくも、お勢の目前で辱められたのが口惜しい。
「しかも辱められるままに辱められていて、手出《てだし》もしなかッた」
ト何処でか異《おつ》な声が聞えた。
「手出がならなかッたのだ、手出がなっても為得《しえ》なかッたのじゃない」
ト文三|憤然《やっき》として分疏《いいわけ》を為出《しだ》した。
「我《おれ》だッて男児だ、虫も有る胆気も有る。昇なんぞは蚊蜻蛉《かとんぼ》とも思ッていぬが、シカシあの時|憖《なま》じ此方《こっち》から手出をしては益々向うの思う坪に陥《はま》ッて玩弄《がんろう》されるばかりだシ、かつ婦人の前でも有ッたから、為難《しにく》い我慢もして遣ッたんだ」
トは知らずしてお勢が、怜悧《れいり》に見えても未惚女《おぼこ》の事なら、蟻《あり》とも螻《けら》とも糞中《ふんちゅう》の蛆《うじ》とも云いようのない人非人、利の為《た》めにならば人糞
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