つ》めたまま、暫らくの間|釘付《くぎづ》けに逢《あ》ッたように立在《たたずん》でいたが、やがてまた気を取直おして悄々《すごすご》と出て参ッた。
 が文三無念で残念で口惜しくて、堪え切れぬ憤怒の気がカッとばかりに激昂《げっこう》したのをば無理無体に圧着《おしつ》けた為めに、発しこじれて内攻して胸中に磅※[#「石+(くさかんむり/溥)」、第3水準1−89−18]《ほうはく》鬱積する、胸板が張裂ける、腸《はらわた》が断絶《ちぎ》れる。
 無念々々、文三は耻辱《ちじょく》を取ッた。ツイ近属《ちかごろ》と云ッて二三日前までは、官等に些《ち》とばかりに高下は有るとも同じ一課の局員で、優《まさ》り劣りが無ければ押しも押されもしなかッた昇如き犬自物《いぬじもの》の為めに耻辱を取ッた、然《しか》り耻辱を取ッた。シカシ何の遺恨が有ッて、如何《いか》なる原因が有ッて。
 想《おも》うに文三、昇にこそ怨《うらみ》はあれ、昇に怨みられる覚えは更にない。然るに昇は何の道理も無く何の理由も無く、あたかも人を辱《はずかし》める特権でも有《もっ》ているように、文三を土芥《どかい》の如くに蔑視《みくだ》して、犬猫の如くに
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