#「てへん+爭」、第4水準2−13−24]人《かせぎにん》が没してから家計は一方ならぬ困難、薬礼《やくれい》と葬式の雑用《ぞうよう》とに多《おおく》もない貯叢《たくわえ》をゲッソリ遣い減らして、今は残り少なになる。デモ母親は男勝《おとこまさ》りの気丈者、貧苦にめげない煮焚《にたき》の業《わざ》の片手間に一枚三厘の襯衣《シャツ》を縫《く》けて、身を粉《こ》にして※[#「てへん+爭」、第4水準2−13−24]了《かせ》ぐに追付く貧乏もないか、どうかこうか湯なり粥《かゆ》なりを啜《すすっ》て、公債の利の細い烟《けぶり》を立てている。文三は父親の存生中《ぞんじょうちゅう》より、家計の困難に心附かぬでは無いが、何と言てもまだ幼少の事、何時《いつ》までもそれで居られるような心地がされて、親思いの心から、今に坊がああしてこうしてと、年齢《とし》には増せた事を言い出しては両親に袂《たもと》を絞らせた事は有《あっ》ても、又|何処《どこ》ともなく他愛《たわい》のない所も有て、浪《なみ》に漂う浮艸《うきぐさ》の、うかうかとして月日を重ねたが、父の死後|便《たより》のない母親の辛苦心労を見るに付け聞くに付け、
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