強する。その内に学問の味も出て来る、サア面白くなるから、昨日《きのう》までは督責《とくせき》されなければ取出さなかッた書物をも今日は我から繙《ひもと》くようになり、随《したが》ッて学業も進歩するので、人も賞讃《ほめそや》せば両親も喜ばしく、子の生長《そだち》にその身の老《おゆ》るを忘れて春を送り秋を迎える内、文三の十四という春、待《まち》に待た卒業も首尾よく済だのでヤレ嬉しやという間もなく、父親は不図感染した風邪《ふうじゃ》から余病を引出し、年比《としごろ》の心労も手伝てドット床に就《つ》く。薬餌《やくじ》、呪《まじない》、加持祈祷《かじきとう》と人の善いと言う程の事を為尽《しつく》して見たが、さて験《げん》も見えず、次第々々に頼み少なに成て、遂《つい》に文三の事を言い死《じに》にはかなく成てしまう。生残た妻子の愁傷は実に比喩《たとえ》を取るに言葉もなくばかり、「嗟矣《ああ》幾程《いくら》歎いても仕方がない」トいう口の下からツイ袖《そで》に置くは泪《なみだ》の露、漸《ようや》くの事で空しき骸《から》を菩提所《ぼだいしょ》へ送りて荼毘《だび》一片の烟《けぶり》と立上らせてしまう。さて※[
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