思ッたと見えて、
「お勢ッ子で沢山だ、婦人の癖にいかん、生意気で」
 ト云いながら得々として二階を降りて往た。跡で文三は暫《しば》らくの間また腕を拱《く》んで黙想していたが、フト何か憶出《おもいだ》したような面相《かおつき》をして、起上《たちあが》ッて羽織だけを着替えて、帽子を片手に二階を降りた。
 奥の間の障子を開けて見ると、果して昇が遊《あそび》に来ていた。しかも傲然《ごうぜん》と火鉢《ひばち》の側《かたわら》に大胡坐《おおあぐら》をかいていた。その傍《そば》にお勢がベッタリ坐ッて、何かツベコベと端手《はした》なく囀《さえず》ッていた。少年の議論家は素肌《すはだ》の上に上衣《うわぎ》を羽織ッて、仔細《しさい》らしく首を傾《かし》げて、ふかし甘薯《いも》の皮を剥《む》いてい、お政は囂々《ぎょうぎょう》しく針箱を前に控えて、覚束《おぼつか》ない手振りでシャツの綻《ほころび》を縫合わせていた。
 文三の顔を視《み》ると、昇が顔で電光《いなびかり》を光らせた、蓋《けだ》し挨拶《あいさつ》の積《つもり》で。お勢もまた後方《うしろ》を振反ッて顧《み》は顧たが、「誰かと思ッたら」ト云わぬばかりの
前へ 次へ
全294ページ中157ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング