トいると、頓《やが》て格子戸《こうしど》の開く音がして、縁側に優しい声がして、梯子段《はしごだん》を上る跫音《あしおと》がして、お勢が目前に現われた。と見れば常さえ艶《つや》やかな緑の黒髪は、水気《すいき》を含んで天鵞絨《びろうど》をも欺むくばかり、玉と透徹る肌《はだえ》は塩引の色を帯びて、眼元にはホンノリと紅《こう》を潮《ちょう》した塩梅《あんばい》、何処やらが悪戯《いたずら》らしく見えるが、ニッコリとした口元の塩らしいところを見ては是非を論ずる遑《いとま》がない。文三は何もかも忘れてしまッて、だらしも無くニタニタと笑いながら、
「お皈《かえん》なさい。どうでした団子坂は」
「非常に雑沓《ざっとう》しましたよ、お天気が宜《いい》のに日曜だッたもんだから」
ト言いながら膝《ひざ》から先へベッタリ坐ッて、お勢は両手で嬌面《かお》を掩《おお》い、
「アアせつない、厭《いや》だと云うのに本田さんが無理にお酒を飲まして」
「母親《おっか》さんは」
ト文三が尋ねた、お勢が何を言ッたのだかトント解らないようで。
「お湯から買物に回ッて……そしてネ自家《じぶん》もモウ好加減に酔てる癖に、私が飲め
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