レ前にその事が出来《しゅったい》したように足掻《あが》きつ※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》きつ四苦八苦の苦楚《くるしみ》を甞《な》め、然《しか》る後フト正眼《せいがん》を得てさて観ずれば、何の事だ、皆夢だ邪推だ取越苦労だ。腹立紛れに贋物を取ッて骨灰微塵《こっぱいみじん》と打砕き、ホッと一息|吐《つ》き敢えずまた穿鑿《せんさく》に取懸り、また贋物を掴ませられてまた事実《もの》にしてまた打砕き、打砕いてはまた掴み、掴んではまた打砕くと、何時《いつ》まで経《た》っても果《はて》しも附かず、始終同じ所に而已《のみ》止ッていて、前へも進まず後へも退《しりぞ》かぬ。そして退いて能《よ》く視《み》れば、尚お何物だか冷淡の中《うち》に在ッて朦朧《もうろう》として見透かされる。
 文三ホッと精を尽かした。今はもう進んで穿鑿する気力も竭《つ》き勇気も沮《はば》んだ。乃《すなわ》ち眼を閉じ頭顱《かしら》を抱えて其処《そこ》へ横に倒れたまま、五官を馬鹿にし七情の守《まもり》を解いて、是非も曲直も栄辱も窮達も叔母もお勢も我の吾《われ》たるをも何もかも忘れてしまって、一瞬時なりともこの苦悩こ
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