フ煩悶を解脱《のが》れようと力《つと》め、良《やや》暫《しば》らくの間というものは身動もせず息気《いき》をも吐かず死人の如くに成っていたが、倏忽《たちまち》勃然《むっく》と跳起《はねお》きて、
「もしや本田に……」
ト言い懸けて敢て言い詰めず、宛然《さながら》何か捜索《さがし》でもするように愕然《がくぜん》として四辺《あたり》を環視《みまわ》した。
それにしてもこの疑念は何処《どこ》から生じたもので有ろう。天より降ッたか地より沸いたか、抑《そもそ》もまた文三の僻《ひが》みから出た蜃楼海市《しんろうかいし》か、忽然《こつぜん》として生じて思わずして来《きた》り、恍々惚々《こうこうこつこつ》としてその来所《らいしょ》を知るに由《よ》しなしといえど、何にもせよ、あれ程までに足掻《あが》きつ※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》きつして穿鑿しても解らなかった所謂《いわゆる》冷淡中の一|物《ぶつ》を、今訳もなく造作もなくツイチョット突留めたらしい心持がして、文三覚えず身の毛が弥立《よだ》ッた。
とは云うものの心持は未《いま》だ事実でない。事実から出た心持で無ければウカとは信
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