の口から僅《たッた》一言、『断念《あきら》めろ』と云ッて戴《いただ》きたい。そうすりゃア私もそれを力に断然思い切ッて、今日ぎりでもう貴嬢にもお眼に懸るまい……ネーお勢さん」
 お勢は尚お黙然としていて返答をしない。
「お勢さん」
 ト云いながら昇が項垂《うなだ》れていた首を振揚げてジッとお勢の顔を窺《のぞ》き込めば、お勢は周章狼狽《どぎまぎ》してサッと顔を※[#「赤+報のつくり」、96−9]《あか》らめ、漸く聞えるか聞えぬ程の小声で、
「虚言《うそ》ばッかり」
 ト云ッて全く差俯向《さしうつむ》いてしまッた。
「アハハハハハ」
 ト突如《だしぬけ》に昇が轟然《ごうぜん》と一大笑を発したので、お勢は吃驚《びっくり》して顔を振揚げて視て、
「オヤ厭だ……アラ厭だ……憎らしい本田さんだネー、真面目くさッて人を威《おど》かして……」
 ト云ッて悔しそうにでもなく恨めしそうにでもなく、謂《い》わば気まりが悪るそうに莞爾《にっこり》笑ッた。
「お巫山戯《ふざけ》でない」
 ト云う声が忽然《こつぜん》背後《うしろ》に聞えたのでお勢が喫驚《びっくり》して振返ッて視ると、母親が帯の間へ紙入を挿《はさ》
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