ч}だ……モウ些《ちっ》と彼地《あっち》の方へ行て見ようじゃ有りませんか」
「漸《ようや》くの思いで一所に物観遊山に出るとまでは漕付《こぎつけ》は漕付たけれども、それもほんの一所に歩く而已《のみ》で、慈母《おっか》さんと云うものが始終|傍《そば》に附ていて見れば思う様に談話《はなし》もならず」
「慈母さんと云えば何を做《し》ているんだろうネー」
 ト背後《うしろ》を振返ッて観た。
「偶《たまたま》好機会が有ッて言出せば、その通りとぼけておしまいなさるし、考えて見ればつまらんナ」
 ト愚痴ッぽくいッた。
「厭ですよ、そんな戯談を仰しゃッちゃ」
 ト云ッてお勢が莞爾々々《にこにこ》と笑いながら此方《こちら》を振向いて視て、些《すこ》し真面目《まじめ》な顔をした。昇は萎《しお》れ返ッている。
「戯談と聞かれちゃ填《う》まらない、こう言出すまでにはどの位苦しんだと思いなさる」
 ト昇は歎息した。お勢は眼睛《め》を地上に注いで、黙然《もくねん》として一語をも吐かなかッた。
「こう言出したと云ッて、何にも貴嬢《あなた》に義理を欠かして私《わたくし》の望《のぞみ》を遂げようと云うのじゃア無いが、唯貴
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