イと我帯を撫《な》でてそしてズーと澄ましてしまッた。
坂下《さかじた》に待たせて置た車に乗ッて三人の者はこれより上野の方へと参ッた。
車に乗ッてからお政がお勢に向い、
「お勢、お前も今のお娘《こ》さんのように、本化粧にして来りゃア宜かッたのにネー」
「厭《いや》サ、あんな本化粧は」
「オヤ何故《なぜ》え」
「だッて厭味ッたらしいもの」
「ナニお前十代の内なら秋毫《ちっと》も厭味なこたア有りゃしないわネ。アノ方が幾程《いくら》宜か知れない、引立《ひッたち》が好くッて」
「フフンそんなに宜きゃア慈母《おッか》さんお做《し》なさいな。人が厭だというものを好々《いいいい》ッて、可笑しな慈母さんだよ」
「好と思ッたから唯好じゃ無いかと云ッたばかしだアネ、それをそんな事いうッて真個《ほんと》にこの娘は可笑しな娘だよ」
お勢はもはや弁難攻撃は不必要と認めたと見えて、何とも言わずに黙してしまッた。それからと云うものは、塞《ふさ》ぐのでもなく萎《しお》れるのでもなく、唯何となく沈んでしまッて、母親が再び談話《はなし》の墜緒《ついしょ》を紹《つご》うと試みても相手にもならず、どうも乙な塩梅《あんば
前へ
次へ
全294ページ中124ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング