tり、
「ヤ大《おおき》にお待遠う」
「今の方は」
「アレガ課長です」
 ト云ってどうした理由《わけ》か莞爾々々《にこにこ》と笑い、
「今日来る筈《はず》じゃ無かッたんだが……」
「アノ丸髷に結《い》ッた方は、あれは夫人《おくさま》ですか」
「そうです」
「束髪の方は」
「アレですか、ありゃ……」
 ト言かけて後を振返って見て、
「妻君の妹です……内で見たよりか余程《よっぽど》別嬪《べっぴん》に見える」
「別嬪も別嬪だけれども、好いお服飾《こしらえ》ですことネー」
「ナニ今日はあんなお嬢様然とした風をしているけれども、家《うち》にいる時は疎末《そまつ》な衣服《なり》で、侍婢《こしもと》がわりに使われているのです」
「学問は出来ますか」
 ト突然お勢が尋ねたので、昇は愕然として、
「エ学問……出来るという噺《はなし》も聞かんが……それとも出来るかしらん。この間から課長の所に来ているのだから、我輩もまだ深くは情実《ようす》を知らないのです」
 ト聞くとお勢は忽ち眼元に冷笑の気を含ませて、振反って、今|将《まさ》に坂の半腹《ちゅうと》の植木屋へ這入ろうとする令嬢の後姿を目送《みおく》ッて、チ
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