ニして満面に笑いを含ませ、紳士の笑い罷《や》むを待ッてまた何か饒舌り出した。お勢|母子《おやこ》の待ッている事は全く忘れているらしい。
 お勢は紳士にも貴婦人にも眼を注《と》めぬ代り、束髪の令嬢を穴の開く程|目守《みつ》めて一心不乱、傍目《わきめ》を触らなかった、呼吸《いき》をも吻《つ》かなかッた、母親が物を言懸けても返答もしなかった。
 その内に紳士の一行がドロドロと此方《こちら》を指して来る容子を見て、お政は茫然《ぼうぜん》としていたお勢の袖を匆《いそが》わしく曳揺《ひきうご》かして疾歩《あしばや》に外面《おもて》へ立出で、路傍《みちばた》に鵠在《たたずん》で待合わせていると、暫らくして昇も紳士の後《しりえ》に随って出て参り、木戸口の所でまた更に小腰を屈《かが》めて皆それぞれに分袂《わかれ》の挨拶《あいさつ》、叮嚀に慇懃《いんぎん》に喋々しく陳《の》べ立てて、さて別れて独り此方《こちら》へ両三歩来て、フト何か憶出したような面相をしてキョロキョロと四辺《あたり》を環視《みま》わした。
「本田さん、此処だよ」
 ト云うお政の声を聞付けて、昇は急足《あしばや》に傍《そば》へ歩寄《あゆみよ
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