施けたとこは全然《まるで》炭団《たどん》へ霜が降ッたようで御座います』ッて……余《あんま》りじゃア有りませんか、ネー貴君、なんぼ私が不器量だッて余りじゃアありませんか」
 ト敵手《あいて》が傍《そば》にでもいるように、真黒になってまくしかける。高い男は先程より、手紙を把《と》ッては読かけ読かけてはまた下へ措《お》きなどして、さも迷惑な体《てい》。この時も唯「フム」と鼻を鳴らした而已《のみ》で更に取合わぬゆえ、生理学上の美人はさなくとも罅壊《えみわ》れそうな両頬《りょうきょう》をいとど膨脹《ふく》らして、ツンとして二階を降りる。その後姿を目送《みおく》ッて高い男はホット顔、また手早く手紙を取上げて読下す。その文言《もんごん》に
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一筆《ひとふで》示し※[#「参らせ候」のくずし字、13−8]《まいらせそろ》、さても時こうがら日増しにお寒う相成り候《そうら》えども御無事にお勤め被成《なされ》候や、それのみあんじくらし※[#「参らせ候」のくずし字、13−9]、母事《ははこと》もこの頃はめっきり年をとり、髪の毛も大方は白髪《しらが》になるにつき心まで愚痴に相成候と見え、今年
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