今日のお嬢さまのお服飾《なり》は、ほんとにお目に懸けたいようでしたヨ。まずネ、お下着が格子縞の黄八丈《きはちじょう》で、お上着はパッとした|宜引[#「引」は小書き右寄せ]縞《いいしま》の糸織で、お髪《ぐし》は何時《いつ》ものイボジリ捲きでしたがネ、お掻頭《かんざし》は此間《こないだ》出雲屋《いずもや》からお取んなすったこんな」
と故意々々《わざわざ》手で形を拵《こし》らえて見せ、
「薔薇《ばら》の花掻頭《はなかんざし》でネ、それはそれはお美しゅう御座いましたヨ……私もあんな帯留が一ツ欲しいけれども……」
ト些《すこ》し塞《ふさ》いで、
「お嬢さまはお化粧なんぞはしないと仰《おっ》しゃるけれども、今日はなんでも内々で薄化粧なすッたに違いありませんヨ。だってなんぼ色がお白《しろい》ッてあんなに……私《わたくし》も家《うち》にいる時分はこれでもヘタクタ施《つ》けたもんでしたがネ、此家《こちら》へ上ッてからお正月ばかりにして不断は施けないの、施けてもいいけれども御新造《ごしんぞ》さまの悪口が厭《いや》ですワ、だッて何時《いつう》かもお客様のいらッしゃる前で、『鍋《なべ》のお白粉《しろい》を
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