ュぜん》として眼鏡越しにお勢を凝視《みつ》めた。「みッともないよ」ト母親ですら小言を言ッた位で。
 漸くの事で笑いを留《とど》めて、お勢がまだ莞爾々々《にこにこ》と微笑のこびり付ている貌《かお》を擡《もた》げて傍《そば》を視ると、昇は居ない。「オヤ」ト云ッてキョロキョロと四辺《あたり》を環視《みま》わして、お勢は忽ち真面目《まじめ》な貌をした。
 と見れば後《あと》の小舎《こや》の前で、昇が磬折《けいせつ》という風に腰を屈《かが》めて、其処に鵠立《たたずん》でいた洋装紳士の背《せなか》に向ッて荐《しき》りに礼拝していた。されども紳士は一向心附かぬ容子《ようす》で、尚お彼方《あちら》を向いて鵠立《たたずん》でいたが、再三再四|虚辞儀《からじぎ》をさしてから、漸くにムシャクシャと頬鬚《ほおひげ》の生弘《はえひろが》ッた気むずかしい貌を此方《こちら》へ振向けて、昇の貌を眺め、莞然《にっこり》ともせず帽子も被ッたままで唯|鷹揚《おうよう》に点頭《てんとう》すると、昇は忽ち平身低頭、何事をか喃々《くどくど》と言いながら続けさまに二ツ三ツ礼拝した。
 紳士の随伴《つれ》と見える両人《ふたり》の婦人
前へ 次へ
全294ページ中120ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング