Aどうしても往《い》かんか」
「まずよそう」
「剛情だな……ゴジョウだからお出《いで》なさいよじゃ無いか、アハハハ。ト独りで笑うほかまず仕様が無い、何を云ッても先様にゃお通じなしだ、アハハハ」
戯言《ぎげん》とも附かず罵詈《ばり》とも附かぬ曖昧《あいまい》なお饒舌《しゃべり》に暫らく時刻を移していると、忽《たちま》ち梯子段の下にお勢の声がして、
「本田さん」
「何です」
「アノ車が参りましたから、よろしくば」
「出懸けましょう」
「それではお早く」
「チョイとお勢さん」
「ハイ」
「貴嬢《あなた》と合乗《あいのり》なら行ても宜《いい》というのがお一方《ひとかた》出来たが承知ですかネ」
返答は無く、唯《ただ》バタバタと駆出す足音がした。
「アハハハ、何にも言わずに逃出すなぞは未《ま》だしおらしいネ」
ト言ったのが文三への挨拶で、昇はそのまま起上《たちあが》ッて二階を降りて往った。跡を目送《みおく》りながら文三が、さもさも苦々しそうに口の中《うち》で、
「馬鹿|奴《め》……」
ト言ったその声が未だ中有《ちゅうう》に徘徊《さまよ》ッている内に、フト今年の春|向島《むこうじま》へ観桜《
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