ヘ難有《ありがた》くも何ともないこと」
 トまた口を揃《そろ》えて高笑い。
「それは戯談《じょうだん》だがネ、芝居はマア芝居として、どうです、明後日《あさって》団子坂《だんござか》へ菊見という奴は」
「菊見、さようさネ、菊見にも依りけりサ。犬川《いぬかわ》じゃア、マア願い下げだネ」
「其処にはまた異《おつ》な寸法も有ろうサ」
「笹《ささ》の雪じゃアないかネ」
「まさか」
「真個《ほんと》に往きましょうか」
「お出でなさいお出でなさい」
「お勢、お前もお出ででないか」
「菊見に」
「アア」
 お勢は生得の出遊《である》き好き、下地は好きなり御意《ぎょい》はよし、菊見の催《もよおし》頗《すこぶ》る妙だが、オイソレというも不見識と思ッたか、手弱く辞退して直ちに同意してしまう。十分ばかりを経て昇が立帰ッた跡で、お政は独言《ひとりごと》のように、
「真個《ほんと》に本田さんは感心なもんだナ、未《ま》だ年齢《とし》も若いのに三十五円月給取るように成んなすった。それから思うと内の文三なんざア盆暗《ぼんくら》の意久地なしだッちゃアない、二十三にも成ッて親を養《すご》すどこか自分の居所《いど》立所《たち
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