になりました、私は寝ずに縫物をしながら待つてゐました。昨夜よく寝たので、いつもと違つて眠くなりません。
Oは妻に文芸倶楽部をくれた。
○
六月三十日
朝、例の如く本を取るため帰宅。
昼飯後、妻がいろんなものを持つてやつて来た。Oに、食事の用意はいつでも出来てゐる。それにちつとも遠慮することはない、尚お望みならお酒も差し上げる、と云ふやうに勧めた。
さう妻に云つたのは、Oは出歩くため金が又すぐ無くなつてしまふなどと妻が云ふからだ。尤も妻はそれを別段気に懸けてゐないやうな調子で云つた。
本当に気に懸けてゐないのか、努めて気に懸けてゐないやうな風をしただけなのか、私にはわからない。
妻は又、Oがわざと私を訪ねようともしないのを見ると、私が下宿に移つたのがOの気を悪くしたのでないか、といふ懸念を漏らした。私は、俺の為にどうかOを大事にしてやつてくれと云つた。……さうして何か意地悪の気持を感じた。
晩にOがやつて来た。
Oは、石灯籠の買手が見附かつたことを初めて私に知らせた。
私は、Oが仕舞には妻のことに触れるやうに話を運んだ。妻が絶えずOのことを心配して
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