嫉妬する夫の手記
二葉亭四迷
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【テキスト中に現れる記号について】
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)わざ/\
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四月二日、Oがうちへ泊りに来た。
はじめに妻は、客が居ると手足を縛られるものだから、その滞在を荷厄介にしてゐた。また女中を雇はないかと或る時妻に云つたら、妻は出費の嵩むのを恐れて、そんな贅沢は出来ません、それにお客様もやがてゐなくなるのでせうから、と云つた。
ところがOは引続き泊まつてゐる。
妻はOのことで時々私に不平を云つたが、どうにかその滞在にも慣れたばかりでなく、進んで客の世話までするやうになつた。みんなあなたの為ですと、弁解か何かのやうに云つたこともある。私は口ではそれは有難いと云つたが、内心別なことを感じてゐた。不満でもあれば何か心配でもある、一と口に云ふと何だか変に面白くないのである。
そのうち妻はだんだんOに親しみを持つて来た。客の方も同じ有様だ。しかし私のOに対する気持は暫くは以前と少しも変らなかつた。
違ふ。Oがゐると仕事の邪魔になるといふことを理由にして一所懸命Oから自由になら
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