うとしてゐたところから見れば、その時既に私の気持は変つてゐた筈である。
しかし自由になる見込がなかつたので、私は田舎へ行くことにきめた。
さうきめた事はOにもよく話したが、勿論本当の理由は云はなかつた。
Oはそれに対して自分は是非家に帰らなければならない、こゝに六月十日過ぎまで滞在することはできない、自分がゐるためあなたの家庭に色んな迷惑をおかけするのは不本意だから、差当り或る友人の家へ移るつもりだ、と云つた。Oにしてみれば気詰りだらうと、その時私は思つた。私は御愛想に、ずつとゐてくれと勧めたが、Oはきかなかつた。私も別に引き留めなかつた。
私は田舎へ行つた。
妻がゐないので随分退屈だつた。妻は一度手紙を寄越したが、その手紙には何の感情も籠つてゐなかつた。頗る冷たいものだつた。
到頭我慢ができなくなつた。Oもやがてゐなくなるだらうと思つて、私は六月九日に帰宅した。
Oはその間ずつと、知人の家へなど行かずにゐたらしい。家へ帰る心算も、いつのまにか無くなつてゐる。何故出発を延ばしたのか、私には云ひもしなかつた。
妻は又、もてなしが悪いと云はせないために随分骨を折つてお世
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