話をしましたと、云ふ。
 私の目についただけでも、妻は私の帰宅を余り喜んでゐなかつた。私が帰つても妻には別にどうといふこともないやうな風であつた。思ひもかけなかつた事である。母は私の帰宅を大層喜んだ。母と妻との違ひが余計私を驚かした。
 私の留守中に、私と妻とに対するOの態度は著しく変つてゐた。私には冷淡に、妻にはますます忸れ忸れしくなつてゐる。一度も自分では云ひ出さないが、妻は大層客の気に入つてゐるに相違ない。

     ○
 以前、Oが来るまでは、妻は毎晩書斎で私の傍に坐つて仕事の邪魔をした。Oが来てからは、Oが家にゐないと終始Oのことばかり云つてゐるし、家にゐるとわざ/\何度もお茶を持つて行つてはいつまでも話をしてゐる。一方私に対しては冷たくなるばかりだ。上総から帰つてからは殊にひどい。


 妻は私には目に見えて冷淡になり、Oには目に見えて忸れ忸れしくなつた。……上総から帰つてから私はそれに気が附いた。
 私が度々本を投げ出すのは、妻の冷淡な態度が癪に触るからだ。

 二十五日? 二十三日?
 妻は一時間半以上もOの傍に坐つてゐた。(十時半から十二時十五分まで。)
 妻が私の
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