た不思議な感情に捉へられて、Oはまだお茶が欲しいかも知れないから一杯持つて行つて上げる方がいい、と云つた。
 それから間もなく妻は起きてOのところへお茶を持つて行つた。十一時頃である。
 行つたと思ふと中々帰らない。初めは二人の話声が聞えてゐた。やがてそれが途切れがちになつた。つまり話がはずまないのだ。
 十二時過ぎに赤ん坊が泣き出した。妻はその時やつと帰つた。四十分許りOのところにゐたことになる。

 それから小供が又寝入つた。私と妻の間に頗る注目すべき対話が行はれた。

  妻との対話

     ○
  二十七日夜、妻と注目すべき対話。豆の話。


  二十八日?
 妻が小供達を連れて来る。
 敷布の赤いしみが私には怪しく思はれる。
 妻はそれを取り換へに来たのだ。
 私が今日引越しすることを知つてゐる筈なのに、妻は私を待たずに赤ん坊を連れて髪結に行つた。
 私は妻の留守中に引越しをした。
 眠れなかつた。一晩中Oのこと、妻のことを考へた。


     ○
   六月二十九日
 朝、蚊帳を買はせるため帰宅した。
 妻は蚊帳を持つて来た。
 妻は云ふ、Oは昨夜遅く帰つてすぐお寝み
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