さんはすぐ、私が二階で油を売つてゐるとお考へになるのです。


   七月二日
 夕飯のため帰宅。
 母は昨晩八時半頃に帰宅し、Oは四時半頃帰つたことがわかつた。小供達は六時半頃に寝たから、多分約二時間は二人だけでゐたことになる。

 妻は母の遣り口を訴へて云ふ。今朝だか一昨日だか覚えてゐないが、妻がOのところに暫く坐つて、Oのズボンを繕つてゐると、母が仕事が済んだら一寸お出でと云つて寄越した。妻はOの前で大変きまりの悪い思ひをした。更に妻の話では、母が世話をしてくれないので赤ん坊はいつまでも泣きやまなかつた。そこでOは、私が小供のお守をしてやる方がいいのだらう、と云つた。それで又大変恥しかつた。
 妻は云ふ。お母さんは、私が『酔興』であの人の世話をしてゐるとでもお思ひなんでせう。お母さんの考へでは、親切なんて余計なものなんでせう。……

 妻は又云つた。丁度私が下宿に移つた二十七日の晩から月経が始まつて、それがまだ終らない。出血は私の移る前数日の間続いて、移る前日、即ち二十六日には止まつた。変だ。

     ○
 私が田舎から家へ帰ると、妻は急に肺病患者のやうな咳をし始めた。
 O
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